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アンクルとの戦い-終 章 後編

 その平和の使者は、意外と早く訪れた。当初は「三日後に」との予定だったが、優先してくれたらしい。恐らく広大な大地を、走って走って走りぬいたのだろう。
「もう三日三晩走り続けている」
 そんな気分だったに違いない。

 その使者は、電気系統のシステムを確認すると、「給水タンクをお使いですか?」と訊いてきた。施主が傍らの井戸輪タンクを指しながら「ええ、これがそうです」と応じた。
「フロートですかね?」
「そうです」
 すると彼は難しい顔を見せた。「それだとセンサーの寿命が短くなるんですよね。けっこう頻繁に反応しますから」
 施主が「ええ、かなりカチカチ鳴りますね」と応じると、「かなり鳴ります?」と確認するかのように再度尋ねた――。

 施主が主電源を切ると、彼は圧力タンクの取替えに動いた。100m地中の水を、1インチ径の管で汲み上げる気圧は相当なものだ。それに耐えるための結合部分の分離はなかなか手強そうだ。そこで狭いボックスの中では身動きが取れないため、圧力タンクの土台ごと外し、ボックスの外で圧力タンクと土台を別けることにした。
 圧力タンクが土台から外れると、彼はバンの後部ドアを開け、新品の圧力タンクを梱包から出した。そして彼が次に行った行為に、施主は目を見張った。
 彼は圧力タンクのてっぺんにある突起を外すと、そこに空気圧を調整するエアーゲージを差し込んだ。プシューっという音を何度かさせて、彼は突起を元に戻した。

 あの作業は何だろう......? アンクル甥がしなかった作業だ。

 施主は眉をひそめ、その後の作業を見守った――。

 圧力タンクの交換を終え、それを再びボックス内に設置するとき、平和の使者が「ひどいな~」と言った。
「この配線、誰がやったんですか?」
 作業をこなす彼の背に「え~とぉー。御社の方だったと思いますけど・・・・?」と施主は思わずそう答えた。配線にOKを出したのが彼の同僚だったからだ。施主は質問の意味を勘違いしたようだった。
「そうか~。うちだったかぁ~犯人はー・・・・」
 使者はそう独りごちると、取付けを終え、ボックスから出てきた。
 実は真意はこうだった。彼らからすると、その配線の技量は素人そのものだった。だから当然、彼もアンクル社の作業と思っていた。ところがそれが同僚の仕業と分かり、ショックを受けたということだ。実のところはそうではないが、アンクル甥はアンクルの甥なのだ。このくらい当然だったにちがいない。


――施主が主電源を入れた。平和の使者が動作を確認し、「問題ないようですね」と言った。そして「あとでアンクルさんの会社から請求書が届きますので、御対応よろしくお願いします」と続けた。
 
 ええ~っ なんでぇ~!Σ(T▽T;)
 
「あちらは関係ないじゃないですか?」
 施主はすこし不機嫌気味に言ったかもしれない。しかしアンクル甥があの"指輪"を手にしている事を知らない平和の使者は、まるでその名のごとく和やかに説明した。
「このユニット施行されたのはあちらですから、弊社とあちらとの契約上、あちらを通さないといけないんです」

 施主は、アンクル族とは正直もう関わりたくなかった。しかし冥王アンクルが"指輪"に込めた精神は、そのポンプが駆動を続ける限り施主を蝕むだろう。


 平和の使者が去った後。施主は地上ポンプユニット周辺の防寒対策を始めた。まずボックスの内側にプチプチを貼り、次に配管にはボロギレを巻いた。そして圧力タンクにはタートルネックのセーターを着せた。
「さすがにここまでやりゃ~いいだろう」
 施主がそんなふうに腰に手を当て自分に言い聞かせた時、ふと、「あれ? そういえばあれから全然カチカチ言わないなぁ・・・・」と思った。
 施主はその後、そのことを努めて意識するようにした。するとほとんどと言っていいほど鳴らず、満水になるときも一度だけ作動して止水していることが分かった。

 やっぱりそうなんだ! あの使者が圧力を調整して、フロートに僅かな抵抗が掛かった時点で止水されるようにしたんだ! だから何度もカチカチ鳴らなくて済んだんだ!

 この15年、あの音は施主たちの神経を蝕んだ。長いときには15分近く鳴り続けている。カチカチカチカチ。まるでアンクルが施主の顔の前で「や~いσ(゚┰~ )」と挑発してるようだった。それだけではない。
「もうそろそろ壊れるんじゃないか・・・・」
 そんな心配が常に頭をよぎった。

――センサーは、いまようやく正常な動作をしている。しかしアンクル甥の稚拙な施行により、既に15年間酷使されてきた。打ち続けたセンサーの回数で考えると、本来ならまだまだあったはずのその寿命も、恐らくあと僅かしか残されていないだろう・・・・・。施主は思った。
「そのとき、自分の心は再びあの”指輪”の力によって引き裂かれるかもしれない。しかし今は、平和の使者がもたらしたこの静寂を受け入れよう・・・・」と。
 そのとき、施主は”白い施主”となった。

 完
 

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タラの芽団地

Author:タラの芽団地
タオイスト
ベジタリアン
合氣道々場主

猫は左が紫苑、右が八雲。

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